キハダはミカン科の落葉広葉樹で、いわゆる薬になる木です。国内では北は北海道、南は九州地方まで生育しています。
キハダの樹皮から採れる黄檗(おうばく)は、今から1300年ほど前、奈良県南部の霊峰大峯山で「修験道」という宗教を開いた「役行者(えんのぎょうじゃ)」が、疫病が流行した際に作り、民を救ったとされる伝統薬「陀羅尼助(だらにすけ)」の主原料です。古くから朝廷にも献上されていた歴史ある生薬です。薬としては、主に整腸作用や抗菌作用があることから胃腸薬や湿布などに利用されてきました。
お薬以外の用途として、樹皮で紙や布を染めると鮮やかな黄色に染まることから染料として利用されてきました。奈良県の世界遺産のひとつである正倉院の宝物庫に納められている和紙の一部には、大切な書類の虫食いを防ぐためキハダで染められています。キハダの名前に由来は、このように樹皮が黄色いことから名付けられたそうです。
一本のキハダから十分な黄檗が採れるようになるまでは、20年がかかります。生薬の中でも栽培期間がとても長い植物です。
キハダはミカン科であることから、成長すると夏頃からブルーベリーくらいの大きさの小さな果実が実ります。柑橘系の強い香りと山椒のような刺激的な味がします。北海道のアイヌ民族は昔から熟した果実を採取し、風邪の時や腹痛の時にスパイスとして食していたようです。縄文時代の遺跡からは、キハダが発見されるなど、本当に古くから人々の生活の中にあった植物です。
近年、黄檗も他の生薬と同様に安価な外国産が主流となり、国産黄檗の需要が減っています。キハダ農家も高齢化進み、事業をたたむ人があとを絶ちません。過度のグローバル化によってひとつずつ、でも確実に失われつつある日本の文化を守るためには、国内でキハダ栽培に取り組む農家を増やすことが必要です。そう考え、これまで使われずに廃棄されていたキハダの芯材や葉など未利用部位を活用するプロジェクト「Re;KIHADA」をスタートさせました。一本のキハダから十分な黄檗がとれるようになるまで、20年という歳月がかかります。今あるキハダを伐採し、黄檗を採取。伐った分だけ苗をつくり植樹します。
ポニーの里ファームはこのプロジェクトを通じて、日本の文化を20年先の未来につないでいく活動を行っています。
一本のキハダから十分な黄檗が採れるまで約20年の期間が必要です。また一般的にイメージする木と同じように根っこをはり、高さが15mから20mくらいにまで成長するので、収穫時のことを考えて植樹する必要があります。
黄檗は、キハダの外皮(外から見える部分)をはがした内皮(黄色い皮)のことを指します。そのため、外皮と内皮が剥きやすい水分をしっかり吸っている6月末から8月のお盆時期の梅雨時期に行います。それ以外の期間に採取を行うと外皮と内皮、木材部分(芯材)がくっついてしまっていて、剥がすことが困難です。水分をしっかり吸っているとヘラを入れたときに、シャクシャクという音がして簡単に剥くことができます。
弊社は2019年からキハダの苗木生産を積極的に行っています。2021年現在で約15000本の苗木を生産しています。キハダの苗木は、種から育てます。種は種蒔きする前年の11月頃に黒く熟している果実を採取します。採取した果実を2~3日水に漬けてふやかし力をかけて潰していきます。すると中から米粒よりもまだ小さい黒い種が5つ出てきます。これらをまた水に漬けて、沈む種だけ集め、育苗箱などにばら蒔きします。約1ヶ月後に発芽します。発芽したものがある程度大きくなったら、床替え作業を行います。弊社ではMスターコンテナといわれるのり巻き方式のポットやペーパーポットに移し、苗を管理しています。すべて手作業で行うためとても時間の作業です。
キハダの苗木は2年くらい栽培し、60cmから80cmくらいの高さになり、幹がしっかりしてくると植樹が可能です。
キハダの天敵は鹿です。苗木を植樹した際、鹿が来るエリアだと大抵食べられてしまいます。鹿も人間と同じように胃腸薬として食べているのかもしれません。鹿の食害を防ぐために防護柵や一本ずつ囲いを付けるなど対策が必要です。
キハダの伐採の目的は黄檗の採取です。しかし、栽培期間が20年という歳月がかかるため、すぐに現金化することができません。弊社は今あるキハダを伐採時に廃棄されている木材や葉など黄檗以外の部位に目を付けました。次の20年の間農家が収入を得られるしくみを作ろうと、未利用部位の活用を行っています。
例えば、木材は乾燥させ製材し、木工製品にしています。コースターやトレー、スプーンやマドラーなど小物などです。キハダは大きい丸太でも直径20cmから30cm程度で幅の広い板は取りにくいです。しかし、木目が荒々しく、日光に当たることで色の変化が起こり、黄金色に光ったようにも見えます。
葉の部分はハーブティーとして利用しています。キハダ葉に湯を注ぐと湯が黄色くなり、爽やかな香りがします。喉や胃スッとするようなスッキリした味わいです。葉を湯につけて置いておくと黄檗と同じような苦みが広がります。
地道な作業ではありますが、生薬としての利用だけでなく、それ以外のキハダの魅力を発信できればと考えています。